【名経営者の共通点】稲盛と永守 京都発カリスマ経営の本質

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京都を代表する企業、京セラと日本電産。その創業者は言わずと知れた稲盛和夫さんと永守重信さんになります。本書『稲盛と永守 京都発カリスマ経営の本質』は、その2人の経営における理念や2人の様々な共通点についてまとめてあります。その中から私が印象に残った内容について掲載しましたので興味がある方は是非ご覧になって下さい!!
日本電産の永守重信さんの情報についてはこちらの記事を参考

 

●はじめに
・稲盛和夫の場合は、フィロソフィとアメーバ経営。永守の場合は、3大精神と3大経営手法。
・2人の経営モデルの共通点は、
①志から出発していること。稲盛は、大義と呼び、永守は夢と呼んでいる。志本経営とでも呼べる。
②長期目標を立てるとともに、短期的な結果を出すことにこだわり続けていること。
③人の心に火をつけること。稲盛は能力を未来進行形でとらえよと語り、永守はIQよりEQが大切と説く。

 

●リーダーの条件
・2人には多くの共通点があるが、その1つが確固たる哲学を貫き通している点である。2人の凄さは、その独自の哲学を社員のみならず、社会に対して広く発信している点である。儲けは信じる者と書き、稲盛は社員、顧客、社会に信者が広がれば儲けにつながると語る。
・永守が座右の書としているのが、中村天風の成功の実現である。松下幸之助や稲盛和夫や永守重信といった実業家やスポーツ界にも信奉者が多くいる。永守は、阿弥陀仏の救いを信じるだけで誰でも救われると説いた親鸞の浄土真宗の教えを参考にしている。
・日本電産の幹部養成コースであるグローバル経営大学校では、必ず1日禅の教えを学ぶプログラムがある。場所は、妙心寺。マインドフルネスの中心地は、京都である。
・永守は教育を自らが果たすべき最大の役割の1つととらえている。そして今の日本の大学は教はしているつもりでも、育は全く実践出来ていないと指摘する。一流大学卒業の人財が経営や事業の現場では役に立たないことを永守自身が痛感したからである。そこで京都先端科学大学KUASを資材100億円を投じて2019年に設立した。
・京都発の実学の最先端といえばiPS細胞の研究であり、京都大学の山中伸弥教授が研究している。iPS細胞が実用化されて寿命が延びれば60歳を超えて2サイクル目の人生設計が出来る。78歳でJAL再生を手掛けた稲盛はまさにそれである。
・永守は、教育と並んで医療をこれからの自らが力をいれるテーマとして掲げており、2017年に京都府立医科大学に永守記念最先端がん治療研究センターを私財70億円を投じて設立した。
・内村鑑三の代表的日本人は、岡倉天心の茶の本、新渡戸稲造の武士道とともに日本人と日本文化に関して英語で書かれており、稲盛の愛読書の1つである。鹿児島出身である稲盛は、鹿児島出身である西郷隆盛と大久保利通は大義を実現する上での師匠としている。

●リーダーの軌跡
・稲盛と永守の生い立ちは非常に似ており、家庭が貧かったこと、ガキ大将だったこと、苦学しながら卒業したこと。中でも人格形成において母親の存在が大きかったことが、最大の共通点である。セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文も母の教えが経営の原点となっている。
・永守は、日本の企業は自社の得意分野とはかけ離れた分野まで手を広げて巨大化してきた。しかし、日本電産はモーターを中心とする回るもの、動くものに拘り、専門分野をさらに深く掘り進めることによって新たな鉱脈を掘り出し業容を拡大していきたい。一意専心の精神が大切だと説いている。ニーチェの汝の足下を掘れ、そこに泉ありというこの名言を稲盛と永守は実践している。
・日本の未来を拓いた歴史的なリーダーは、いずれも日本固有の価値観を基軸としていた。決して欧米直輸入ではなく、代表的日本人の群像がそうであり、論語と算盤を唱えて日本型資本主義の礎を築いた渋沢栄一がそうである。終戦後、焦土から水道哲学を掲げて世界のQOLの向上に努めた松下幸之助がそうである。
・永守は、サムスン電子やLGエレクトロニクスの創業家から経営哲学を学び、稲盛は中国の古典から多くの人生哲学を学んだことから欧米型とは一線を画したアジア型の経営モデルがこれから世界から注目される可能性が高い。稲盛は65歳で出家している。

 

●リーダーの素顔
・稲盛の京セラフィロソフィは大きく4部構成
①素晴らしい人生をおくるために、
②経営のこころ
③京セラでは1人1人が経営者
④日々の仕事を進めるにあたって
の4つである。
・フィロソフィと対をなすのがアメーバ経営である。アメーバ経営とは、社員を6〜7人の小集団(アメーバ)に分け、アメーバごとに時間当たり採算の最大化を目指す仕組みである。いわゆる全従業員が経営に参加する全員参加経営を実現する経営手段である。
・永守は、夢やロマンといった柔らかい言葉を好む。そしてIQよりEQが大切が口癖である。また、3大経営手法として、井戸掘り経営、家計簿経営、千切り経営の3つを持ちこんでいる。
・京セラフィロソフィは、宇宙の意志と調和する心という教えから始まる。そして、日々採算をつくるがアメーバ経営の基本原則であり、理想と現実を直視し、そのギャップを全社員が埋めるのである。
・稲盛は大胆さと細心さは相矛盾するものですが、この両極端を併せ持つことによって初めて完全な仕事が出来ると説く。
・稲盛は、松下幸之助と同様に素直なこころの大切さを説く。永守は、原理原則にしたがって、当たり前のことを当たり前にやっていくことが経営の極意だと語る。

●アメーバ経営の本質
・アメーバ経営を実践する上で第一に社員1人1人が自分が所属するアメーバの主役という自覚を持つこと。それによって各自がやらされごとから自分ごとへととらえ直すことが出来る。
・稲盛は成果主義では、実績が悪くなり報酬が減った場合に多くの社員が不満や恨み妬みの心を持つことになるので、長い目で見るとかえって社内の人心を荒廃させてしまうことになると説く。
・成功方程式は、
人生、仕事の結果=考え方✖️熱意✖️能力
プラトンは価値の源泉は、真善美の3つだと説き、真は能力、善は考え方、美は熱意に近いものである。アリストテレスは、人を動かすには、エトス、パトス、ロゴスの3要素が不可欠だと説き、エトスは考え方、パトスは熱意、ロゴスは能力と読み替えられる。
・京セラのアメーバ型はホロン型組織とティール型組織を先取りしたものであり、ホロン型の企業内企業家を育成することという企業活動は、アメーバ経営の特徴そのものである。
・京セラフィロソフィー課題として、経済的な価値とともに、社会的な価値の実現が求められる。社会的な価値の実現が大義であり、経済的な価値や利益は手段でしかない。そのために、価値観が多様化していく世の中において社会的な価値とは何かを真摯に説い続ける必要がある。
・アメーバ経営の課題としては、利害対立もだがいかにアメーバを超えて知恵を流通させるかである。経済学者のシュンペーターはイノベーションは新結合あるいは異結合から生まれると看破した。それぞれの小集団が自分の持ち場を超えて自由自在に動き回るために、最近京セラでは16の事業を3部門に集約し、それぞれにセグメント長をおいた。そして、デジタルネットワークを駆使して社内外のプレーヤーと繋がり共創関係を構築していく。

 

●永守戦略の真髄
・永守3大精神は、
①情熱、熱意、執念
②知的ハードワーキング
③すぐやる、必ずやる、出来るまでやる
の3つである。
・3大精神の中でも、永守が最も象徴するのが、知的ハードワーキングである。現在の日本電産は、創業当初のような物理的ハードワーキングから知的ハードワーキングへの移行を進めてきている。2020年、残業を0にすると宣言したが、これは生産性を2倍にするという宣言である。
・永守3大経営として家計簿経営、千切り経営、井戸掘り経営の3つがある。家計簿経営とは収入に見合った出費をすることを指す。会社経営も経費を収入の範囲内に収める一方、将来への投資も怠らない。千切り経営は、問題を小さく切り刻んで対処することである。どんなに難しい問題も、細かく要素分解すれば解決しやすくなる。そして3つ目が最も永守らしい永守流イノベーションである井戸掘り経営である。井戸の水を汲むと時間が経てば新しい水が湧き出るのと同じで経営も変革のためのアイデアを常に出し続けるということである。既存事業の周りを掘り尽くすことで、その企業ならではのイノベーションのアイデアが生まれ、新たな事業がすくすくと育っていく。
・永守は、ESGやSDGsという言葉を一切使わない。こうした借り物の言葉いわば客観正義を信用しておらず、理屈をこねる前に実行するいわば主観正義を生み出していく。借り物の言葉では、人の心に火をつけられないことを良く知っているのである。
・日本電産は、新市場、新製品、新顧客の3つを現場が知的ハードワークでこなし続けてきたが今後は、そのような現場のたくみの知恵を組織のしくみへと転換し続けていくことがカギとなる。

●盛守モデルの共通点
・改めて稲盛経営の成功の方程式は
①人生、仕事の結果=考え方✖️熱意✖️能力
永守イズムにおいては、
②評価値=基本的なものの考え方+熱意+能力
稲盛は籍、永守は和で表現しているところに違いがある。
共通点は、稲盛も永守も能力は他の2つの従属変数にすぎないことを看破している。
そして、微妙な違いは稲盛は考え方、永守は熱意を原動力として位置づけている。
・IQ知能指数、EQ感性指数、JQ判断指数の3つが永守経営の3拍子である。一方、稲盛はプラトンが唱えた真善美を心が求め続ける3つの価値ととらえており、真=IQ、善=JQ、美=EQに近いとも解釈出来る。
・考え方=JQ、善、エトス、パーパス
熱意=EQ、美、パトス、パッション
能力=IQ、真、ロゴス、プロフィット
このように稲盛哲学と永守哲学はともに、プラトンやアリストテレスから西田哲学、そして現代の最先端の経営モデルにまで通底している。
・2人の経営の共通点は、①志す、②実践する、③発信するである。
①は永守流にいえば、いかに夢やロマンに満ちているか。稲盛流にいえば、そこに宇宙の意志が流れているかである。
②は稲盛は実学と呼び、永守は経営手法と呼ぶ。稲盛と永守は、目標と結果にこだわる優れた手法を独自に開発し、導入した。
③は心を動かすことを指す。ここにおいては、論理思考というより洗脳がカギを握る。

 

●大義と大志
・自分達は何のために生きるのか。この問いに対する永守の答えはシンプルであり、世の中になくてはならないものを提供すること。他人のやらないことをやること。必ずその領域でトップ企業となること。の3つである。永守は、利益を上げ続け、それをさらに投資して、社会に広く価値を届けることこそが公器たる所以だと説く。
・稲盛の場合、経営者にとっての真の試練は、思い切った思考の跳躍が出来るかどうか、また企業経営は遠大な目標を掲げた崇高な仕事だと信じることが出来るかどうかであると言う。
・稲盛は大義、永守は大志を大事にする。
・稲盛と永守は、夢をみることを重要視し、永守は夢をロマンに置き換えることが多い。夢やロマンは未来を買うことだと考える。
・20世紀型の資本経営から21世紀型の志本経営に変化が求められる。ミッション使命がパーパス志に、ビジョン構想がドリーム夢に、バリュー理念がビリーフ信念へと変わる必要がある。客観主義から主観主義へのパラダイムシフトである。
・まずは志をしっかり持つことが大事である。吉田松陰は、志を何よりも大切にした。明治維新で活躍した松下村塾の塾生達は「志から始めよ」というメッセージを吉田松陰から叩き込まれたのである。
・禅宗で得度し、悟りを目指す稲盛に対し、浄土真宗の念ずる力を信じる永守の方がより庶民的な世界観に踏みとどまっているといえる。

●経営の押さえどころ
・稲盛は自利利他の精神であるリーダーは、同じ会社で働く同志として、会社全体の視野に立ち、人間として何が正しいのかという1点をベースに判断しなければいけないと説く。
・永守は事業の基本は販売と言い切る。そして永守経営の強みの源泉は圧倒的な営業力にある。営業が示す市場価格に合わせつつ、10%以上の収益を稼ぐ力が求められる。
・稲盛経営の真髄は、楽天的に構想し、悲観的に計画し、楽天的に実行するという3拍子である。そして日本人には、楽天的に構想する力が足りないと説く。
・永守もMBAのポーター流の教科書的な戦略とは無縁である。シェアが1番、2番は残し3番以下の事業は売っていくという捨てる経営を行なっている。
・稲盛と永守の共通の特徴は、
①自ら未来を切り拓く力
②空間をつなぐ力
③時間軸に対する柔軟な感性
の3つである。
・稲盛は能力を未来進行形でとらえることの必要性を説く。過去の成功や失敗にとらわれるのではなく、常に未来の可能性に向かって挑戦し続けることと説く。
・稲盛と永守が共通してこだわるのは、長期的な高い目標と短期的な堅実な成果である。遠近複眼経営である。

 

●魂を揺さぶる
・稲盛、永守の経営は、ヒトという資源を磨き上げ、もてるポテンシャルを最大限に引き出すことこそ、リーダーの最大の役割だと位置付ける。
・稲盛、永守は共通して部下に指導する際は自分の体験に基づく平易な言葉で語りかける。
また、共通した経営の考え方として圧倒的な当事者意識を持っている。リクルート創業者の江副もこの言葉を使い、現在もリクルートの行動原理となっている。
・稲盛は「お釈迦様は六波羅蜜で精進を通じて、人間は成長していく、つまり働くことは心を磨くことであり、人間を作る上で最も大切な要素である」と言う。
・一橋大学名誉教授の伊丹は、日本企業の大成長の原動力は、ヒトを基軸とした日本型システムだと論じ、それを人本主義と名付けた。
・稲盛も永守も人財育成を最重要課題として位置付け、最も多くの時間を割いている。永守は、1人の経営者を作ろうと思えば、最低10年と10億円の投資が必要と説く。

●盛守経営の未来
・新SDGsを筆者は提唱している。Sは、サステナビリティを指し、今のSDGsの17枚のカードは教科書的な規定演技にすぎない。それぞれの企業が独自の高い志に貫かれた18枚目のカードを提唱すべきであり、それを筆者は自由演技と呼ぶ。Dはデジタルを指し、肝となるのはXであり、デジタルを駆使していかに企業変革を実践するかである。Gはグローバルズであり、多極化し、分断されていく世界を再結合していく必要がある。そして、新SDGsの共通基盤は志である。
・稲盛と永守は、2030年をターゲットとする現行のSDGsのはるか先の未来を構想している。稲盛は利他の心の大切さを説き続ける。永守は、夢に溢れ活気ある社会の構築を目指し続ける。SDGsの18枚目のカードは、共感、感動である。日本企業がグローバルスタンダードから解き放たれ自社ならではの自由演技を演じることが重要である。
・盛守経営の特徴が、中国でのインサイダー化であり、稲盛の著書は発行数の半分以上が海外で売り出され、9割以上が中国である。中国企業の若い経営者の中にも、稲盛流経営の信者は多い。
・孟子は覇道ではなく王道を歩むべきつまり、権力ではなく徳で治める道の重要性を説いたが、稲盛もこの教えを今こそ学び直すべきだと説く。
・セールスフォースドットコムの創業者マークベニオフは、個を重視してきた西欧の近代思想と訣別し、共を重視する東洋思想を取り入れようとしている。

 

●おわりに
・稲盛と永守は京都発グローバル企業の創業者というだけでなく、共通点が多い。1つは、2人とも中村天風の思想的影響を大きく受けていることである。最近では、大谷翔平選手も天風の運命を拓くを読んで感銘を受けたという。
・あえて2人の違う点を挙げるとすれば、稲盛は天風の仏教や禅に通じる思想に強く影響を受け、永守は天風の超ポジティブ思考と歯に衣着せぬ迫力ある話法を受け継いでいる。
・2人とも平成の欧米流の経営手法を小賢く取り組んだ経営手法の潮流に背を向ける。両利きの経営ではなく、「ニーチェの汝の足下を掘れ、そこに泉あり」という教えをブレずに実践している。
・2人とも超長期の視点を見極めつつ、今日の経営にど真剣に取り組む遠近複眼経営を行っている。

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