【社会人必読書】ビジョナリー・カンパニー①〜ジム・コリンズ〜

読書

ビジョナリー・カンパニー①~時代を超える生存の原則~
ジェームズ・C・コリンズ著者 1995年初版

本書の内容をざっくりまとめます。
(※ネタバレ含みます。)
最後に感想書きました。

 

 

●メッセージ
『成功している企業の特徴に関心がある全ての人は、本書を読むべきである』
『真に卓越した企業と、そうでない企業との違いはどこにあるのか』
『時(製品、サービス)を告げるのではなく、時計(会社)をつくることが重要』
『製品開発はあくまでビジョナリーカンパニーへの手段、適切な利益追求は目的を達成するための手段である』

 

●概要
まず、この本がこれまでの経営書と最も違う点は、設立以来、現在に至るまで企業の歴史の全体を調査し、“他の企業と直接比較した所”です。
ビジョナリー・カンパニーと他の企業を直接比較した所にあります。

 

●ビジョナリー・カンパニーと比較対象企業とは?
ビジョナリー・カンパニーとは金メダル企業のこと!


ビジョナリー・カンパニーを完全に失敗した企業と比べても役に立つ情報は得られません。
例えるなら、オリンピックの金メダルチームを高校生のチームと比べても違いは見つかりますが、その違いに意味はありません。
この本は、すなわちオリンピックの“金メダルのチームと銀メダルや銅メダルのチームと比べて一貫した違いが見られるか”を調べてまとめたものになります。

 

●結論
①時(製品、サービス)を告げる予言者になるな。時計(会社)をつくる設計者になれ。
②二律背反つまりORではなく、両得ANDの才能を重視しよう。
③基本理念を維持し、進歩を促す。
④一貫性を追求しよう。矛盾はないか、口だけになっていないか。
⑤①〜④を全て継続して行う。

 

●本文
1章. 崩れた神話達
✖️ビジョンがあって会社を作る
✖️カリスマリーダーが必要だ
→優秀な後継者が生まれにくい
✖️利益追求を第一としている
✖️重要なのは変わり続けることだ
→基本理念は内なる声、絶対に不変である
✖️社外から優秀なCEOを抜擢する
✖️2つの相反するものは手に入れられない
→ORではなく、ANDを目指す
✖️:全て間違い

 

2章. 時を告げるのではなく時計をつくる
・ビジョナリーカンパニーをつくるのに、カリスマ的指導者も素晴らしいアイデアも全く必要ない。
・ヒューレットパッカード、ソニー、ウォルマートを見ると、決して創業者が卓越したアイデアを持って会社を始め、その後魅力ある商品ライフサイクルの成長カーブに乗ったわけではないことが分かる。
・素晴らしいアイデアを出発点としている会社の比率は、比較対象企業の方がビジョナリーカンパニーより高かった。
・素晴らしいアイデア、製品にこだわると、企業が究極の作品だと考えられなくなってしまう。
製品はあくまで会社の手段であると、発想を転換する。
・ビル=ヒューレットとデーブ=パッカードの究極の作品は、音響用オシロスコープでも電卓でもなく、会社と経営哲学である。
・会社の組織が卓越しているから、素晴らしい製品やサービスを次々に生み出せるのである。
・会社の組織が卓越しているか、優秀な経営者が何代にもわたって輩出されているのかが重要である。
・国の繁栄も同じで誰が大統領になるべきか。優れた国王になるだろうか。ではなく、組織についてのビジョンを持ち、自分達や全ての未来の指導者が従うべき憲法をつくることが重要である。

 

3章. 利益を超えて
・メルクにおいて、医薬品は患者のためにあることを忘れない。医薬品は人々のためにあることを絶対に忘れない。このことを肝に銘じていればいるほど利益は大きくなっていく。
・メルクはメクチザンやストレプトマイシンを無料で配布した。
・ソニーの井深大は7人の社員と19万円の貯金で出発し当初数々の失敗作を出したが、設立したばかりに会社の基本理念を書き表した。これが半世紀近く同社の推進力となった。
・フォードに対してGMのCEOアルフレッドスローンは時計をつくる志向が非常に強かったが、スローンの時計には心がなかった。
現実主義だけではダメで理想主義も同時に掲げ別に切り分けることが出来るのが一流である。
・ビジョナリーカンパニーは理念と利益を同時に追求するANDの才能を比較対象企業より大切にしている。
・ヒューレットパッカードにとって技術の進歩に貢献しない成長は意味がない。
・ジョンソン&ジョンソンは1982年タイレノール事故の際にタイレノールのカプセルを事故発生場所のシカゴだけでなくアメリカ全土から完全に回収した。費用は1億ドルと推定されるが、結果ワシントンポスト紙は『費用を度外視して、正しいことを自発的に行う企業だというイメージを確立するのに成功した』と伝えた。
ビジョナリーカンパニーは純粋な理想主義でも、純粋な現実主義でもない。その両方を合わせ持っている。現実的な解決策を見つけ、かつ、基本的価値観を貫くのが課題と考える。
現実主義的な理想主義という逆説的な考え方をはっきり持っている。
・マリオットを動かす要素は、カネではなく素晴らしい仕事をしているという誇りと達成感であり、結果として株主は魅力的な投資収益を得る。
・ビジョナリーカンパニー全社に共通している基本理念の項目はひとつもない。
つまり、基本理念の内容が大事なのではなく本物の基本理念を持っており、それが社員の指針となり活力を与えているかどうかが大事である。
・ビジョナリーカンパニーは概して基本理念を持つことを重視しており、基本理念を生き生きとしたものとして維持しようと懸命に努力している。
基本理念=基本的価値観+目的
基本的価値観は、簡潔、明快、率直で力強い。
ビジョナリーカンパニーの基本的価値観はほぼ5つ以下である。
基本理念を掲げるときには心から信じていることを表すことが不可欠である。
目的は、広い意味を持ち、根本的で不変なものにすべきである。
ビジョナリーカンパニーは目的を追い続けるが、完全に達成することはあり得ない。
ウォルトディズニーの発言
『想像力がこの世からなくならない限り、ディズニーランドが完成することは絶対にない。』

 

4章. 基本理念を維持し、進歩を促す
・中国の陰陽思想の陰と陽のように共存する関係。お互いに強化している。まさに相乗効果である。
現実主義的な理想主義を持ち、そして進歩を促すことがビジョナリーカンパニーたる条件。
・ビジョナリーカンパニーになりたければ基本理念だけは変えてはならず、企業として前進しながら基本理念以外の全てを変える覚悟で挑まなければならない。
企業理念以外の文化、戦略、計画、方針はリニューアルし続けるべきだ。
・進歩への意欲があれば今がどんなに順調であっても、決して満足しない。
・そしてビジョナリーカンパニーは基本理念を維持し、進歩を促す具体的な仕組みも整えている。これが大切である。
・基本理念を維持し、進歩を促す仕組み作りで大事な項目としては、『社運を賭けた大胆な目標(進歩を促す)』、『カルトのような文化(基本理念を維持する)』、『大量のものを試して上手くいったものを残す(進歩を促す)』、『生え抜きの経営陣(基本理念を維持する)』、『決して満足しない(進歩を促す)』の5つである。

 

5章. 社運を賭けた大胆な目標(進歩を促す)
・はっきりした目標に向かって全力を尽くすのは、気持ちがいい。
BHAG(Big Hairy Audacious Goals)(社運を賭けた大胆な目標)は、人々の意欲を引き出す。
ポイントは目標が正しいか間違っているかではなく目標が月面着陸のように、とても明確で、説得力があり、進歩を促す可能性が高いものであるかである。
・BHAGが組織にとって有益なのは、それが達成されていない間だけである。よって目標を達成する前に次のBHAGを考えておくべきである。
・ボーイング、ディズニー、IBMは不退転の決意とリスクをかけてBHAGを達成しようとした。
・P&Gは1919年卸売会社を通さず、小売店と直接取引することにより雇用を安定させるという大胆な目標を掲げた。そして、1923年アメリカ産業初、事業の季節的変動に変わりなく年間通じて安定して雇用することを保証した。
重要なのは指導者ではなく目標である。目標が指導者を超えることが大事。
・比較対象企業には、偉大な指導者が去ったあとの停滞に陥ったケースが多かった。
・BHAGは企業レベルではなく、店舗、部門、店員まで会社のあらゆるレベルで利用出来るし、実際にビジョナリーカンパニーはそうしている。
・BHAGの追求するにあたっては、基本理念を注意深く維持するべきである。基本理念と進歩を促すBHAGがリンクしているのである。
・ソニーのBHAGは、低品質という海外での日本製品のイメージを変え、ポケッタブル・トランジスター・ラジオの開発である。

 

6章. カルトのような文化(基本理念を維持する)
・ノードストロームは、社員がいつも全速力で突っ走っているようながむしゃらな職場で働くのが好きでないのなら、この会社に就職すべきではないと就職案内に書かれている。
ビジョナリーカンパニーは、勤務成績にしてもイデオロギーの信奉という点でも社員に対する要求が厳しい。
・まるで新興宗教のように仲間か仲間外れにされるか白か黒どちらかである。
・カルト集団に見られる『基本理念の熱狂と教化』、『基本理念の同質性の追求と選別』、『優れたグループにいるというエリート主義』といった共通する点がある。

☆IBM
・IBMのCEOだったワトソン・ジュニアは20世紀前半の社内をカルトのような雰囲気だったと表現している。研修生に社歌を歌わせたり、IBMの社員は、会社特有の言葉を学びいつも会社にふさわしいプロ意識を発揮するよう求められる。
・ワトソン・シニアは同社が特別な職場、優れた会社だという考え方いわゆるエリート主義を吹きこもうと努力してきた。
・IBMが会計機、コンピュータへの適応といった特に成功を収め、環境の変化に適応する能力が高かったのは、カルトのような企業文化が強かった時期である。

☆ウォルト・ディズニー
・ディズニーではどの部門で働いていても、健全さの理想について皮肉を言ったり、悪口を言ったりすることは出来ない。
・ディズニーは従業員の選別と教化を徹底し、秘密保持と管理に固執し、世界中の子供たちの生活にとって特別であるという神話を注意深く作りあげている。
・ウォルト=ディズニーは秩序と管理に徹底しており、キャストが人前でつい汚い言葉を使ってしまった場合決まって直ちにクビになった。
・ウォルトディズニーが死んだあとディズニーは勢いを失ったが、かなりの部分基本理念を守る仕組みを生前作っていたため、10年間で会社を再生することが出来た。

☆プロクター&ギャンブル
・中途入社はありえない。中堅、上級のポストは下から昇進してきた忠実な社員にしか割り当てない方針。
・P&Gの社員は、主に他の社員と付き合い、同じジムに入り、同じ協会に通い、同じ地域に住むのが当然とされている。
・1915年には、従業員の61%が従業員持株制度に参加し、心理的にも完全な一員になっていた。
・同質性の追求も徹底されている。海外に行く時、何よりもまず適合しなければならない文化はP&Gの文化であり、その国の文化は2番目と教えられる。
・1991年の経営陣向け株式オプション制度には、オプションを受け取った者が許可なく社内情報を外部に流した場合、オプションが取り消される。この秘密主義によって、エリート主義が強化されている。

・この章で学ぶべき点は、個人崇拝のカルトをつくるべきだということではない。それは絶対にやってはならない。あくまで、ビジョナリーカンパニーは、イデオロギーに関してカルト的になっている。
・カルトのような文化は、エリート組織の一員であり、どんなことでも達成出来るという意識を作りだす。
・イデオロギーの管理は→基本理念を維持し、業務上の自主性は→進歩を促す。
・基本理念をしっかりさせ、従業員を教化し、病原菌を追い払い、残った従業員にエリート組織の一員として大きな責任を負っているという感覚を持たせるべきである。

 

7章.大量の物を試して上手くいった物を残す(進歩を促す)
・ジョンソン&ジョンソンは、1890年薬用絆創膏のいくつかで患者の皮膚が炎症を起こしたという問題が発生し、対処法としてベビー・パウダーを考え販売するきっかけとなった。
・1920年社員の妻が包丁で指を傷つけるのがきっかけとなり、社員が簡単に使える絆創膏を作り、これがやがて同社の歴史で最大のヒット商品となった。
・地域小荷物会社として発足したアメリカン・エキスプレスは、意図せずに金融サービスと旅行サービスに進出した。
・ビジョナリーカンパニーは比較対象企業に比べて、BHAG(社運を賭けた大胆な目標)に続く第2の種類の進歩として“進化による進歩”を促している。
“進化による進歩”と”BHAG”で違うのは、以下2つ。
①目標はあいまいであり、いくつもの方法を試していけば、いつか上手くいくものにぶつかるだろうということ。
②BHAGのような思い切った飛躍ではなく、それまでの事業の延長線上にある小さな一歩にすぎず、時に意図しなかった戦略的な転換が生まれるということ。
・ダーウィンの進化論はビジョナリーカンパニーにもあてはまる。
アメリカン・エキスプレスを種にたとえると、20世紀初め本社の本来の事業である小荷物事業は四面楚歌であったが、金融サービスと旅行サービスという変異があった。これらの変異が、同社が進化を遂げ、その後の繁栄をもたらす基盤になった。
・ビジョナリーカンパニーは、賢明な洞察力と戦略的な計画の結果であると考えるよりも、多数の実験を行い、機会を上手くとらえ、上手くいったものを残し、上手くいかなかったものを手直しするか捨てるという泥臭いことを行なった結果なのである。

☆3M
・筆者は、ビジョナリーカンパニー18社の中で今後50年間、100年間成功を続け、環境の変化に対応していく企業を1社だけ選べと言われたら3Mを選ぶ。
・ある若手社員マックナイトの主張で製品の手直しと改善を始め、なんとか生き残れた。そして1914年、30歳にもならない彼を総支配人に昇進させた。彼に実験と試験を行わせ研磨布のスリーエム・アイトを発売。発売から75年経っても、同社の製品リストにある。
・マックナイトは好奇心旺盛であり、あるときオーキーという顧客がサンドペーパーを非常に欲しがっているのを知り、本人に理由を尋ねた。これが、ウェットドライというブランドで新しいサンドペーパーを発売するきっかけとなり、同社の歴史の中で最も重要な製品となる。
・さらにマックナイトは生来の”時計づくり”(会社づくり、組織づくりら)であるため、オーキーを社員として雇い、3Mの研究開発の中心として働かせた。
誤りが起きたとしても許容し、自由に働ける組織づくりの構築により、サンドペーパー事業から一歩踏み出し、テープ事業(マスキングテープ、セロハンテープ)に踏み出すことが出来た。
・ゴールデン・ステップ賞として社内に新しい事業を作りあげて成功を収めた社員に贈られる賞。また、ジェネシス基金としてプロトタイプを開発して、テスト販売を行う研究者に報酬を渡すなど社内に起業活動を促す仕組みを作っている。
・比較対象企業のノートンは、内部の進歩を刺激する仕組みを確立するのではなく、自社にぴったりの企業を買収しようとした。
・1970年代、80年代、3Mは個人の創意工夫を奨励して新しい分野に挑戦し、計算ずくではなくかなりの部分は偶然の産物によって新しい市場を開拓した。一方、ノートンはコンサルタントから渡された調査結果と計画モデルに依存し、”計画こそが命”として足踏みをし前進を怠った。結果、ノートンは1990年買収される。

3Mを手本にしてビジョナリーカンパニーが進化を促すにあたって学ぶべき教訓は以下6つ
①試してみよう。なるべく早く。
②誤りは必ずあることを認める。
③小さな一歩を踏み出す。
④社員に必要なだけの自由を与えよう。
⑤重要なのは仕組みである。着実に時を刻む時計を作るべきだ。
⑥基本理念を維持する。進歩を促すには”基軸から離れない”のではなく、”基本理念から離れない”のである。

ダーウィンの進化論のように、様々な実験(繁殖)を、様々な種類で行い(変異)、上手くいったものを残し(強いものが生き残り)、上手くいかなかったものを捨てる(弱いものが死に絶える)ようにしなければならない。
そしてまるで種が変異し、進化しても、遺伝コードは変わらない自然界のように、ビジョナリーカンパニーも変異を重ねても基本理念(遺伝コード)は変わらないのである。さらにビジョナリーカンパニーは目的と精神という自然界にはない特徴を持つ。その精神とは上に挙げた5つの教訓を重視することである。

 

8章.生えぬきの経営陣(基本理念を維持する)
・1806年〜1992年の間ビジョナリーカンパニーCEOのうち、社外から招集された者は、3.5%、比較対象企業は22.1%である。
“経営者の質”ではなく、重要なのは、優秀な経営陣の継続性が保たれていること、それにより、基本理念が維持されていることである。

☆コルゲートとプロクター&ギャンブル
・コルゲートは当初P&Gと肩を並べる規模の企業であったが、後継計画が貧弱で、経営者の継続性が保てなかったため、基本理念から離れ社風があいまいになってしまった。
・そして後継計画を怠ったため、後継のチャールズ=ピアースは会社の規模を大きくすることだけに気をとられ、事業の基本と価値観を無視した。これにより、事業が混乱し、そののちも経営者が交代する時期に何度も問題が起こりP&Gに対し大きく遅れをとることになった。
P&Gは、経営幹部を常に育成して、どのレベル、役職でも引き継ぎにあたり断絶が起きないように基本理念を会社全体で維持することを重視している。

☆ゼニスとモトローラ
・ゼニスの創業者マクドナルドは、ワンマン経営者であり、まともな後継者を育てていなかった。
・対してモトローラの創業者は息子を平社員から会社で働かせ、そしてその息子ボブガルビンは、父親が亡くなってすぐに次世代のために、経営幹部の育成と後継計画を考えた。
・そして複数によるチームで首席業務執行室をつくり、中間管理職のレベルまで広げて会社全体で経営幹部を育成した。
・モトローラは設立から60年、一度も経営者の断絶に苦しんでいない。

・1993年IBMが生えぬきのCEOを解任し、コンピュータ業界の経験がない人物をR.J.レイノルズから迎えいれた。
これに対して筆者は疑問、指摘を投げかけている。ビジョナリーカンパニーには、変革をもたらし新しい考え方を取りいれるために経営者を社外から招く必要は全くない。経営幹部育成制度があるのであれば、優秀な人材が社内にいるはずだからである。
・GEのような巨大企業でなく中小企業においても、数少ない候補者からCEOを選ぶわけにはいかなくとも、経営幹部を育成し、長期的に後継計画を立てることは出来る。そして、目的を追求し、基本的価値観を貫いていくのである。

 

9章.決して満足しない(進歩を促す)
・ビジョナリーカンパニーが飛び抜けた地位を獲得しているのは、“自分自身に対する要求が極めて高い”という単純な事実のためである。
・ビジョナリーカンパニーは工程の改善だけでなく、不断の改善という観点から将来のために長期的な投資を行っている。
・ビジョナリーカンパニーは安心感ではなく不安感を作り出し(自己満足に陥らないようにし)外部の世界に強いられる前に変化、改善を促す”仕組み”がある。

☆不安感を生み出す仕組みの例
・P&Gは社内にブランド・マネジメント構造(社内のブランド同士が直接競争するようにする)を実施し、変化と改善を内側から刺激する強力な”仕組み”を作った。
・GEはワークアウトと呼ばれる制度を設けて従業員がグループごとに集会を開き、改善の提案を話し合い具体的な提案をまとめ、管理職の見ている前で回答しなければならないという仕組みを作った。
・ボーイングは管理職に”敵の視点”を持たせてボーイングを壊滅される戦略を立案する任務を与えその戦略に基づいて、ボーイングが取るべき戦略を考えていく仕組みを設けている。
・ヒューレットパッカードには現金払いと呼ばれる強力な仕組みがあり、長期負債を禁止する方針を取っている。無借金経営を貫くために、会社全体の管理職が業務を引き締めることになり、簡素で効率的な組織をつくりあげている。

・比較企業のテキサスインスツルメンツは、規模の拡大と短期的な成長を追求するあまり、優秀で革新的な製品を生み出す基礎を崩してしまい、長期的な見通しに深刻な打撃を与えた。
一方ヒューレットパッカードはじめビジョナリーカンパニーは、長期的な成功を目指しながら同時に短期的な業績についても高い基準を掲げている。
・ビジョナリーカンパニーは比較対象企業に対して研究開発費の比率が高く、採用、研修、能力開発に力を入れている。
・マリオット対ハワード・ジョンソンの比較では、ハワード・ジョンソンはコスト管理、効率化、短期的な利益目標に焦点を絞りすぎたのに対し、マリオットは不況時でも将来への投資を続けた。

☆おさらい
・自己満足に陥らない不安をもたらす仕組みを作り、将来のための投資を続けながら、同時に今の業績を良くするために新しい方法や技術を導入する。
・ビジョナリーカンパニーは安心感が目的ではなく終わりのない修練の過程を重視し、不景気の時も将来のために投資を続ける。

 

10章.はじまりの終わり
・基本理念と進歩をビジョンと言い換えてもいい。ビジョンとは、長期にわたって維持される基本理念と、将来の理想に向けた進歩の2つの組み合わせのことである。これが”一貫性”であり、相互に補強し合い、組織の”すみずみ”にまで浸透させている。

☆フォード
・1980年代の驚異的な業績回復を達成したとき、設立以来はじめて統計的な品質管理の手法を導入し、現場の責任者に権限を与えた。そして自社工場だけでなく部品メーカーにも徹底させるため、研修セミナーを開き実地指導を行なった。
・利益分配制度を労働組合と交渉して導入し、従業員に会社の業績が重要な意味を持たすようにした。
・顧客の意見を取り入れ、顧客の満足度を高めるためにトップクラスの経営幹部が顧客を集めて意見を聞くグループ調査に出席した。
・ディーラーのサービスについて品質、責任、実績の追跡調査を行い、顧客満足度が高かったディーラーに社長賞を表彰した。

☆メルク
・ジョージWメルクは、1920年代後半に同社のビジョンの骨格をつくりあげ、世界トップクラスに入る製薬会社を築きあげ、医薬品の分野での技術革新によって人類に貢献する事業を進めようと考えた。
・言葉や発言だけでなく、会社の研究所の設計にあたって、大学のような環境と外見を持たせることを目標にし、実際に大学や競合しない企業の研究所に勤務する社外の研究者と共同研究するよう促した。
・研究所内で適者生存の淘汰が行われ、特に優れたプロジェクトが資源を引きつけ、劣ったプロジェクトは死に絶えるようになっており、新薬は競合する薬品より著しく優れたものでない限り市場に投入しないという制約を自ら課している。
・第二次世界大戦後、結核が流行っていた日本に利益を無視してストレプトマイシンを送ろうと考え、アフリカの風土病で失明になる糸状虫症の治療薬を無料で配布するなど社会的責任についての認識を実際の行動に結びつけている。

☆ヒューレット・パッカード
・メルクと同じく高い価値観や理念を持つと同時に”一貫性”を持たせるために、広範囲な手段をとってきた。
・従業員を尊重する姿勢として”株式上場前”に1940年代に、清掃係からCEOまで全員に同じ比率のボーナスを支払うようになり、すべての従業員を対象に、高額医療費保険制度を設けた。
・1950年代株式上場した時、全ての従業員を対象に自社株を無条件に分配し、従業員持株制度をつくり、会社が25%の補助を出した。
・アメリカ企業として初めてフレックスタイム制度を設けた。
・メルクと同じように革新的な新製品を自力で本社からの開発費援助を受けることなく開発し、市場に持ち込まなくてはならない。
・「HPウエイ」の考え方に従業員がいつも浸り切っているように、自社に熱中し、忠誠心を持ち、誇りを持ち全員が信じて実践している。

改めて、

①時を告げる予言者になるな。時計をつくる設計者になれ。
②ORではなく、ANDの才能を重視しよう。
③基本理念を維持し、進歩を促す。
④一貫性を追求しよう。矛盾はないか、口だけになっていないか。
⑤①〜④を全て継続して行う。

基本理念は”作りあげる”ことも”設定する”ことも出来ない。
基本理念は内なる声であり、”見つけ出す”しかない。基本理念は”本物”でなければならない。だからこそ、逆境にも外部からの圧力にもブレることはない。
・顧客の要求が基本理念から離れる場合はあっさりと無視すべきである。
・共通の信念を持ち、共通の大目標に向かう人達との関係を保っていきたいという人間の欲求がある以上、基本理念は必要である。

 

●感想
本書で何度も述べられている基本理念を維持し、進歩を促すという“陰陽思想”の絵が非常に記憶に残りました。
これを実践するのは企業として非常に大事ということが分かりましたが、これは個人にも置き換えられる話なのではないかと感じました。
自分の生き方は『こうでありたい、こういう人間になりたい』という大目標である基本理念をまずは設定し、達成するために一つの手段に縛られずに色々な方法を模索しながら実践するということ。
また、“時を告げる予言者ではなく、時計をつくる設計者になれ”においても、一つの目標や夢を達成して満足するのではなく、次の目標や夢を探しそれに向けて努力し続ける心構えを持ち続けることが重要。
これを生涯繰り返すことで一人の人間として、完人(まったき)、いわゆるパーフェクトヒューマンになれるのではないかと思いました。
個人として一人一人がこれを実践することで、全体としても素晴らしい成長や繁栄が望めるのだと思います!

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