【目からウロコの経済学!】奇跡の経済教室〜基礎知識編②〜中野剛志

読書

奇跡の経済教室〜基礎知識編〜
中野剛志著

本書は経済学者や官僚でも知らないような高度な内容を、だれでも理解できるように分かりやすく経済学について説明したものになります。
内容としては、一部と二部に分かれていて、一部は、「おカネとは何か」、「税とは何か」といった根本的な問題にまで掘り下げて解説したものになり、二部では、著名な経済学者たちの議論を批判的に検討してみるという内容になります。
この記事では、前回の一部の「おカネとは何か」、「税とは何か」の記事に続きまして二部の著名な経済学者たちの議論を批判的に検討してみるという内容についてご紹介したいと思います!!

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目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】 [ 中野剛志 ]
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●オオカミ少年を自称する経済学者
・経済学者吉川洋東京大学名誉教授の発言は、まさにインフラ耐震工事費を40兆円も出せないから、南海トラフ地震の被害は甘受しろと言っているに等しい。政府債務の対GDP比率は、吉川氏らが国家財政の事実上の破綻とした水準をすでに上回り、240%近くとなっているが、長期金利はわずか0.03%にすぎない。
・デフレが収束し経済成長が回復すると、ただちに政府の利払い負担が国税収入を上回る可能性が高いと主張するが、経済成長は税収の増加をもたらし財政収支を改善するはず。1990年頃、長期金利は6%を超えていた。バブル景気が税収の増加をもたらしていたからである。
利払い負担が、国税収入を上回る可能性を心配するのは、杞憂である。それでも、金利の上昇を回避したいのであれば日銀が国債を買い取ればよいのである。
・防災のための、インフラ事業費まで削られたために地震や豪雨などの自然災害によって、多くの人命が失われてきた。

 

●自分の理論を自分で否定した経済学者
・経済学者の岩田氏は量的緩和(日銀による国債の大量購入)によってマネタリーベースを増やすことで、インフレを起こすことが出来ると強く主張してきたが、インフレ目標は達成出来なかった。構造デフレ説を否定した岩田氏は2014年に構造改革がデフレ圧力を生むと発言している。
・岩田氏は、マネタリーベースの拡大を続けることを、民間経済主体に信用させることが出来るかがインフレ目標を達成出来る鍵だと述べている。しかし、マネタリーベースを増やしたところで、貨幣供給量は増えずインフレは起きない。
・岩田氏の後任に若田部氏が日銀副総裁を引き継ぐ。若田部氏の主張は、物価水準はインフレ目標と金融政策で決まっていると主張。岩田氏と同じ主張である。関税の引き下げは、国内の雇用を奪うという悪い効果をもたらす。失業者が増えれば、需要はますます減りデフレは悪化する。しかし、若田部氏は関税引き下げがデフレを悪化させるという説を否定する。個別価格の低下であって、一般物価の低下であるデフレとは関係ないと主張。若田部氏は、コアコアCPI※を押しているが、暗に原油価格という個別価格が一般物価を左右することを認めているのである。※コアコアCPIとは、「消費者物価指数(CPI)」の一つで、天候や市況など外的要因に左右されやすい食料(酒類を除く)とエネルギーを除いて算出した指数の俗称である。
・量的緩和による円安の効果は、輸入品の価格が上昇すると、国産品の需要が伸びるので、デフレ脱却に貢献するというメリットがある。一方、原油や大豆のように輸入が大半を占める財の価格が上昇するならば、家計や企業を圧迫するだけの悪いインフレである。若田部氏は、マクロで考えると円安の副作用はあまり気にしなくて良いと述べているが、もしそうであるならば2014年の消費増税の悪影響も円安によって相殺できたはずである。円安によって多くの製造業が好採算となったとしても、投資、賃上げ、雇用の増大に繋がるとは限らない。デフレ下では企業もまた、支出を減らし、貯蓄を増やそうとするからである。

 

●変節を繰り返す経済学者
・イェール大学名誉教授浜田宏一氏は、ケインズが言ったとされる言葉を引用して「状況が変われば意見を変える」と発言しているが、状況が変わったからではなく、変わらなかったから意見を変えたのである。アベノミクス発足当初は、金融政策という薬だけで日本経済は立ち直ると考えており、これは、フリードマンによる貨幣数量説が原型である。しかし、この説はケインズが全力で否定した理論であった。金融政策にはインフレ退治の効果はあっても、デフレ退治の効果は乏しいのである。そして、浜田氏は財政拡張政策併用が不可欠だと考えを改めたのである。
浜田氏が考えを改めた理由として、
①量的緩和の効果に翳りが出てきたこと。浜田氏が内閣官房参与に着任する以前から、日本は流動性の罠に落ちるのに十分な超低金利状態にあった。しかし、浜田氏による理論が始まり、2016年までに量的緩和によりマネタリーベースは平均417兆円と2013年と比較して283兆円増加したが、コアCPI※は、マイナス0.4%と依然としてデフレのままだった。これが考え直した理由の1つ。※コアCPIとは、消費者物価指数に含まれている全ての対象商品によって算出される総合指数から、生鮮食品を抜いて算出した数値のことである。
②円安の限界が明らかになったこと。金融緩和による円安が輸出を伸ばすことに期待していたが、1年間日本の低金利にもかかわらず、円安にならなかったことが考え直した理由である。そもそも、円安誘導で外需を獲得するという禁じ手である近隣窮乏化政策を安倍総理に助言していたのである。
③2016年に日銀が導入したマイナス金利政策の効果が出ていないこと。マイナス金利を課すことで、民間銀行の積極的な貸し出しを後押しする政策であったが、効果は出なかった。デフレで需要がないときは需要を創出する以外、貸出しは増えないのである。
・浜田氏は、シムズ氏の論文で赤字があっても財政を拡大するべき時もあると主張している内容に衝撃を受けたとのことだが、これは浜田氏が白川氏に公開書簡を送りつけていた2010年の時点ですでに同様の議論がされていた。浜田氏が参考にする2000年代初頭のFRBの理事バーナンキ氏の政策は、世界金融危機に直面すると、大規模な量的緩和を断行し、金融危機の悪化を防ぐ効果はあったが、物価を上昇させることには失敗したのである。
1990年代後半には、経済学者のみならず、政治家、官僚、マスメディアも財政政策は無効であるという誤った認識が常識になっていた。金融政策だけで、経済を立て直すという実験は、日本でもアメリカでも失敗しているのである。しかし、浜田氏は、「消費増税10%引き上げは、一度はいいかもしれない。」という発言や「2%のインフレ目標については絶対に必要なものではない。雇用情勢についてはもっと金融で需要をつけないといけない。」と発言し、かつての金融政策偏重に戻ってしまい非常に支離滅裂な発言を残している。

 

●間違いを直せない経済学者
・クルーグマン、サマーズ、ローマーの各氏は異端派どころか、主流派であり、そんなかなりの大物がマクロ経済学は、過去30年以上にわたり進歩どころか、むしろ退歩したと断じ、主流派経済学を批判し始めた。
・エリザベス女王が、2008年居並ぶ経済学の世界的権威達に「なぜ誰も金融危機が来ることを分からなかったのでしょうね。」と尋ね絶句させたという出来事がある。
・主流派経済学者が扱う一般均衡理論が想定する世界とは、物々交換の世界、つまり貨幣のない世界である。正確に言うと、信用貨幣のない世界である。主流派経済学の理論モデルには、どんなに精緻な数式で埋め尽くされていようが、信用貨幣が組み込まれていない。主流派経済学の理論モデルは、信用貨幣を想定していないため、当然銀行制度も想定していない。すなわち銀行が想定されていない理論モデルが金融危機を想定出来るわけがない。そのような非現実的な経済理論が経済政策に影響を及ぼしてきたことこそが、金融危機を引き起こしたと言える。
主流派経済学者達は、一般均衡理論は供給は常に需要を生み出すというセーの法則を前提としているので、経済成長させるためには、供給力を強化しさえすればよいということになる。なので、主流派経済学者達は生産性の向上や国際競走力の強化といった供給力を強化する対策しか言わないのである。もし、セーの法則が成り立つならば労働者の供給過剰ということは起こり得なく、失業者など存在しないということになる。
“21世紀の著書”であるトマ・ピケティ氏も経済学者達の数学への偏執狂ぶりは科学っぽく見せるにはお手軽だが、現実世界が投げかけるはるかに複雑な問題には答えずに済ませていると批判している。
主流派経済学者達がどんな制約条件をつけて理論モデルを操作したところで、そもそもその理論の中核にあるのは正しい貨幣概念を欠いた一般均衡理論である。しかし、主流派経済学者達は経済学の博士号を持っていない者の議論や、一般均衡理論に基づいていない議論に対しては、聞く耳を持たないだろう。主流派経済学を否定するものは、経済学を知らない素人として扱われ、経済学や経済政策の議論の場から排除されてしまうのである。
・MMTについては、パウエルFRB議長は「自国通貨建てで借り入れが出来る国は財政赤字を心配しなくてよいという考え方は間違いだ。」と発言し、黒田日銀総裁も同じようなことを述べている。サマーズ氏は、ハイパーインフレを招くと主張している。
しかし、MMTは財政赤字の大小はインフレ率で判断すべきと考えている。むしろMMT論者達は、インフレを抑制する政策についても色々と提言している。就労保障プログラムと呼ばれるアイデアを出しており、これは景気の変動を緩和し、物価を安定させつつ、完全雇用を可能にするというアイデアである。

 

●よく分からない理由で、消費増税を叫ぶ経済学者
1997年と2014年の消費増税は、民間最終消費支出を大きく縮小させており、ショックの度合いは、リーマンショックや東日本大震災に匹敵するものだった。そして、消費税による消費抑圧効果は、リーマンショックや東日本大震災によるショックよりもはるかに長く続いている。慶応義塾大学教授の井手氏が消費増税に賛成する理由は、主流派経済学に基づく議論とは、若干違うようである。ベーシックなサービスを、無償で全ての人に提供するために、消費税を軸とし、みんなで痛みを分かち合おうというものである。しかし、消費税の痛みは低所得者の方が高所得者より強いという逆進性を持っており、これでは痛みを分かち合うことは出来ない。それであるならば、累進所得税を採用した方がよい。
・井手氏は、財源を作り出すためには、税を払ってその財源を作るか、あるいは銀行にお金を預け、銀行が国債を買うことで財源を作り出すか2つに1つだと主張する。しかし、税は財源確保の手段ではない。自国通貨建てが出来る政府は、税で財源を確保する必要はない。そして、銀行は人々が預けたお金を元手にして国債を買うのではない。銀行は、中央銀行が供給した準備預金を通じて国債を買うのであり、政府支出によって民間預金が増えるのである。

 

●主流派経済学は、宗教である
・TPP(自由貿易協定)の経済効果の試算において、CGEモデル(応用一般均衡モデル)が用いられた。アメリカを入れたTPP12カ国では、日本の実質GDPは1.37%押し上げられるという試算結果だった。ところが、アメリカを除いた11カ国で発効した場合でも、1.11%押し上げられるという結果となり、12カ国中GDPで6割を占めるアメリカが抜けようが抜けまいがTPPの経済効果にはほぼ違いがないのはおかしい。
実は、このCGEモデルは非現実的な仮定に基づいている。貿易自由化によって生じるはずの失業による損失はあらかじめ計算しないようになっている。要するに、八百長なのである。こうした間違った数字に対して研究者たちが改めて現実的な仮定を置いた上で試算したところ、アメリカは0.54%、日本は0.12%減少するという試算になった。また、TPP参加国全体で77万1000人の雇用が失われ、アメリカでは44万8000人の雇用が失われるという結果となり、アメリカはTPPから離脱した。
・1860〜1892年のヨーロッパは自由貿易体制にあり、1866年〜1877年は貿易自由化のピークだったが、この時期のヨーロッパは大不況の真っ最中出会った。一方、アメリカは世界で最も保護主義的な国家であったが、目覚ましい発展を遂げ経済大国とのし上がった。ヨーロッパ諸国は、1892〜1894年に各国が保護主義化した時期に景気回復することになる。最も保護主義的な措置をとった国々こそが、最も急速に貿易を拡大した。貿易自由化には、デフレ圧力があり、保護関税は国内産業をデフレ圧力から保護し、国内産業の発展を促すのである。その結果、各国の経済が成長して消費需要が増え、輸入が増えたので貿易が拡大したのである。浜田氏は、2国間でお互いに関税障壁を設けると両国間の貿易は全体として縮小し、2つの国の経済はどちらも不利益になると述べているが、歴史的な事実はそれを否定している。
・戦後日本の輸出依存度は、戦後復興、高度成長期からデフレになる前を通じてほぼ10〜15%であり、過去20年間のアメリカと同じ水準であった。戦後日本は、貿易立国だというのは、神話にすぎず、日本はアメリカ同様内需大国である。そして、輸出依存度を高くすると経済が成長するわけではなく、デフレを脱却して正常な内需主導の経済成長をすれば日本の輸出依存度は下がる。
・19世紀末から20世紀初頭にかけて、グローバリゼーションが行われていたが、WW1、世界恐慌、WW2によって途絶し、WW2以降の世界経済体制は脱グローバリゼーションの方向に向かう。ところが、1970年代西側諸国でインフレが問題になると対策として1980年代以降に再びグローバリゼーションへと向かうことになる。それにより、世界経済は軒並み鈍化し、貿易自由化が徹底された方が経済成長率は低下した。また、“21世紀の資本”の著者トマ・ピケティ氏が明らかにしたように1980年代以降の先進諸国では格差が拡大したのである。つまり、貿易自由化が格差を拡大し、経済成長を阻害した可能性があるのである。
リーマンショックの翌年の2009年に主流派経済学者のポールクルーグマン氏も財政出動だけでなく、保護主義についても真面目に検討すべきだと主張している。財政出動と保護主義の組み合わせによって、各国が内需を拡大すれば、世界経済全体も回復へと向かうかもしれないからである。2010年以降アメリカの研究では、1999年から2011年の間の中国からの輸入によって、アメリカの雇用は200万人から240万人ほど失われたと推計している。そして、ポールクルーグマン氏は「保護主義について良いことを言ういかなる理論も間違っているなどと言わないでもらいたい。それでは神学であって、経済学でない」と述べている。

 

●感想
著名な経済学者達の謝りを認めない。謝りを認めても結局また考えを戻してしまうという現象は大変理解し難く非常に根深く厄介な問題だと思いました。また、デフレ下での消費増税の悪影響は、リーマンショックや東日本大震災の影響以上だと知って改めてありえない政策だと知りました。
エリザベス女王の、2008年居並ぶ経済学の世界的権威達になぜ誰も金融危機が来ることを分からなかったのでしょうねと尋ね絶句させたという出来事はまさに主流派経済学に対しての疑念や問題提起以外に他ならないでしょう。
いずれにしても1人1人が、周りの意見や思想に安易に流されずにしっかり自分の頭で考えことが大事だと思うので、私自身これからも色々な情報を取り入れて自分なりに考えていきたいと思います。

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