【目からウロコの経済学!】奇跡の経済教室〜戦略編②〜中野剛志

読書

奇跡の経済教室〜戦略編②〜
中野剛志著

本書は経済学者や官僚でも知らないような高度な内容を、だれでも理解できるように分かりやすく経済学について説明したものになります。
規制緩和、自由化、グローバル化、消費増税全てデフレ下において逆行していることがわかり、目からウロコが落ちること間違いなしです!
戦略編①についてはこちらをご参照ください!

 

●結論
・財政支出を拡大して、デフレを脱却することが第一!緊縮財政から積極財政へと転じる!
・ムチ型(企業利潤主導型)成長戦略からアメ型(賃金主導型)成長戦略へと転換する!

 

第8章 エリートたちの勘違い
・終戦直後の財政赤字を引き合いに出して、現在を危機的状況と評するのは、根本的な誤りである。財政赤字赤字が多すぎるか少なすぎるかは、インフレ率をもって判断すべきである。
・人口減少⇨増税⇨もっと人口減少⇨もっと増税という悪循環が生じている。人口減少だから、増税しかないという思い込みによって増税がなされ、その結果、人口減少が本当に止められなくなる。これが、自己実現予言である。
・内需には期待出来ないから、外需を獲得するしかないという思い込みが、本当に外需依存の経済を作ってしまう。まさに自己実現予言である。
・国債の償還をするのに増税は全く必要なく、国債の償還期限が来たら新規に国債を発行して、同額の国債の償還を行う借り換えを永久に続ければよい。国債は将来世代へのツケではなく、未来への贈り物である。財政健全化という現世代の愚かな政策こそ将来世代のツケである。

MMTは、インフレを制御不能にする?
・MMT否定派が長期デフレの日本で財政赤字の拡大は、インフレを起こすなどと心配するのは、長期の栄養失調の患者が栄養の摂取は、肥満を招くと心配するようなものである。
・インフレ率2%になった場合、増税や歳出削減は必要なく、維持するために、予算規模を前年と同程度にすればよいだけで、その後も予算規模を安定的に推移させればよい。
・財政赤字を拡大すると同時にムチ型成長戦略をやめて、アメ型成長戦略へと転換しなければならない。そして、賃金上昇や実体経済の需要拡大によって経済が成長するような経済構造へと改革しなければならない。

第9章 なぜエリートたちは考え方を変えられないのか
・1947年に公布された財政法には、国の歳出は国債に頼ってはいけないという均衡財政が原則であると規定している。これは、赤字財政は戦争につながるという論理から、憲法第9条の戦争放棄を裏書き保証するために、盛り込まれたものである。
・1973年までは、固定為替相場制であったため、財政赤字の拡大には経常収支という制約があった。そのため、財政赤字を削減して無理やり需要を縮小させ、輸入を減らす必要があった。その後、田中角栄の首相の時は列島改造論を掲げて、インフラ整備を推進し、また石油危機が起きたために、狂乱物価と言われる激しいインフレが起きた。こうしたことから、1970年代の大蔵省は、財政赤字の削減に腐心した。
・日米間のエリート達の認識共同体を通じて、新自由主義というイデオロギーが世界に広まっていった可能性がある。
・こうした一連の認識共同体の中で、日本の大蔵省官僚達は、従来の均衡財政への信念をますます固く信じるようになった。
・新自由主義に胃を唱える政治家や官僚はクレンジングによって消えていくため、周りには新自由主義を信じて疑わない者しかいなくなっていく。そして国内だけでなく海外のエリート達と話しても、同じ新自由主義の価値観を持っていることが確かめられる。

MMTが受け入れられない心理学的な理由
・MMTは、財政赤字を拡大してよい、政府債務は増やしても心配ないということを論理的に説明している。この赤字や債務という表現は国民にとってネガティブなイメージが強い。しかし、通貨を発行出来る政府の赤字や債務を、家計や企業の赤字や債務と同じと捉えてはいけない。
・財務省は、時として財政赤字を将来世代へのツケと表現し、また時として未来への贈り物と表現している。
・官僚や経済学者といったエリート達は、自分達が正しいと信じて疑わなかった財政健全化やグローバル化、あるいはムチ型成長戦略のせいで多くの国民が不幸になり、路頭に迷い、亡くなられたりした方も少なくないということを今更認めたくないのである。

MMTと認識共同体
以下著名な経済学者の見解
・ポールクルーグマンは、消費税10%の増税は悪夢のシナリオと言い切っている。
・ローレンスサマーズは、2014年の消費増税は間違いだと日本政府に警告していた。
・アデアターナーは、消費税の延期を提言し、財政赤字を拡大し続けろとまで言っている。
・オリヴィエブランシャールは、日本政府に対して、プライマリーバランスの赤字を拡大しろとか、財政支出を増やせとか、日銀の量的緩和政策は非生産的だとか、超低金利はかえって需要を縮小するぞとか、日本政府の経済政策をほぼ全否定している。

第10章 なぜ保守派は、新自由主義が好きなのか
・特に新自由主義が加速したのは、橋下龍太郎政権、小泉純一郎政権、第二次安倍晋三政権である。この新自由主義に基づく経済政策は、これら保守派が大事にしてきたものをことごとく破壊する。
・新自由主義は、規制の少ない労働市場を通じた労働者の移動が、経済を効率化すると信じているが、労働者の移動が流動的になってしまうと、地域共同体の絆は弱くなってしまう。
・新自由主義が理想とするグローバル化は、各国固有の文化や伝統的な生活様式を破壊し、とりわけ移民の流入は国内に異文化を持ち込むことになりその破壊力たるや強力である。
・1980年代以降新自由主義を掲げてきたのは、むしろ保守派であり、代表的な例はサッチャー政権とレーガン政権、日本では中曽根政権であり、国鉄民営化など新自由主義色の強い政策を推進してきた。
・アメリカや日本で1970年代のインフレが民主主義の過剰がもたらす財政赤字のせいであるという政府の捉え方が強くあった。しかし、当時のアメリカのインフレの原因はベトナム戦争による軍事費拡大、石油危機の原油高、変動相場制への移行が原因である。
・保守主義という思想は、18世紀のイギリスでフランス革命を懸念したアンチテーゼとして出来た思想である。民主主義が過剰になっていくのを心配していたところ、インフレが止まらなくなるという現象が発生し、保守派の目に社会秩序の危機と強烈に映ったのである。
・保守派は民主主義の過剰を是正、新自由主義者はインフレの抑制、こうしたことからお互いの利害が一致し保守派と新自由主義は結ばれることとなった。

 

第11章 なぜリベラル派は嫌われるのか
・かつて、新自由主義者のサッチャーは社会なんてものは存在しないとまで言い放ったと言われている。
・国内の労働者を保護するために、国家主権を強化すべきだという主張は、国家嫌いのリベラル派からは、ほとんど出てこなかった。
・2009年にリベラル派の期待を背負って成立した民主党政権は、公共投資の削減や事業仕分けなどの政府支出の抑制、TPP交渉への参加への前進、消費増税法の成立など新自由主義的な政策を進めた。
・リベラル派は、弱者保護の身振りをしてアイデンティティの問題を声高に論じながら、実は勝ち組の側に立っているため、一般庶民から嫌われるようになった。
・保守派の保守的新自由主義、リベラル派の進歩的新自由主義、どちらも同じ穴のムジナであり、こうなってしまうと政策論争は不毛なものになってしまう。
・第二次世界安倍政権は、保守派にしては珍しく女性の活躍を掲げ、女性の就業を奨励した。しかし、デフレ下での女性の就業促進は、賃上げを抑制する新自由主義的な政策である。

第12章 世界を読み解く新たな座標軸
・保守派である自由民主党の中で新自由主義に傾いた勢力は、自らを改革派と呼び、新自由主義に反発する勢力を守旧派、抵抗勢力と呼んでいた。一方、リベラル派の中では、民主社会主義的な勢力はかつての社会党であり、進歩的新自由主義と言えるのは、かつての民主党であったと言える。
・現実の国政における政党の構図は、依然として右対左という伝統的な対立軸によって分けられており、親グローバル化対反グローバル化の対立軸が必ずしも反映されていない。
・MMTの提唱者の一人であるステファニーケルトン氏は、反グローバル/左のバーニーサンダース候補の顧問を務めていた。
・2016年のアメリカ大統領選は、右対左と親グローバル化対反グローバル化という四元構造に対して、既存の二大政党制では、もはや対応出来なくなったということを、如実に示している。
・イギリスのEU離脱やトランプ大統領の登場、ヨーロッパ各地での右派の台頭、黄色いベスト運動。いずれについても、エリート達には想定外の出来事で、彼らはグローバルなエリートの認識共同体に安住していたために、人々の怒りや不信に気づかなくなっていた。

 

第13章 滅びゆく民主主義
・グローバル化は避けられない、グローバル化を進めようと主張している人達は、民主政治の否定は避けられない、民主主義の否定を進めようと主張しているのと同じになるのだが、それでいいのだろうか?
・現在の世界情勢であらわになっているグローバル化対反グローバル化の対立は反民主政治対民主政治の対立だと理解すべきである。
・国際条約をムチ型成長戦略のために利用すべきではなく、民主政治に任せていては、財政赤字の削減や移民の受け入れなどが実現しにくいからと言って、国際条約によって民主政治をすり抜けようというのは、国際条約の悪用と言わざるを得ない。
・政治や経済というものは、一度決めたらそう簡単には元に戻したり、変更したりすることはできないものである。

第14章 歴史の大問題
・富裕層、投資家、経営者は、貨幣価値が下落し、賃金が上昇するインフレを非常に嫌がる。そして、彼らはその強い政治的影響力を行使して、インフレを起こさせないような経済政策を推進する。これが経路依存性である。
・経路依存性は、技術や制度だけでなくイデオロギーにもある。終戦直後、財政赤字抑制に成功した官僚が高く評価され出世し、そして財政健全化に邁進する後輩を引き立てるといった経路に依存するようになってしまっている。

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