【元自動車メーカー設計者が語る】各国におけるEV車の動向について

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今、世界中で環境問題について騒がれています。地球温暖化、大気汚染の影響によりガソリン車、ディーゼル車の販売禁止の規制など様々な動きがある中で、各国の動向について簡単にまとめました。
自動車会社関係に携わる方は是非チェックしてみてください!また、各車メーカーのEV車動向についても是非確認下さい!
この記事の参考文献は『決定版EVシフト(東洋経済)』となります。

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各国のEV車の動向
●中国
・中国では、大気汚染の社会問題により、1990年代後半よりオートバイの総量規制が導入されこれを機に二輪車の電動化が始まりました。現在では中国の150以上の都市で規制が導入されていて、こうした流れの中で中国は四輪車でも将来的にドラスティックなEVシフトを実現する可能性があります。

・補助金政策によりNEV(新エネルギー車)市場が立ち上がっています。2009年から2012年にかけて、「十城千両プロジェクト」を実施しており、これは中国政府の科学技術部、財政部などが発動したプロジェクトで大中型都市の公共交通機関、タクシーなどの分野を対象に3年間にわたり、1年あたり1000台のエコカーを導入して、2012年に中国の自動車市場におけるエコカーの割合を10%に増やすことを目標にしたものです。NEVの導入台数を2015年までに50万台、2020年までに500万台とする極めて挑戦的な目標を設定している。補助金に関して、地域においては1台あたり200万円という多額の補助金があてられております。

・大気汚染対策だけでなく、燃費規制も導入しており、新エネルギー車導入促進の方針に基づきNEVを数多く生産、販売した企業にはNEVクレジットを優遇する措置がとられています。また、ガソリン車に対して環境関連の税金をつけることも考えているようです。

・NEVシフトで狙う技術の下克上を狙っているようで「中国製造2025」を発表し、NEVの販売台数を2020年に市場全体の5%、2025年には20%としています。良質なEVを作るために技術やノウハウを導入するべく、外資系企業や異業種企業によるNEV市場への参入を奨励しているようです。

・中国とドイツの共同覇権構想として、ドイツはこの10年間で、中国との貿易を大きく拡大し、成長の柱としてきております。2015年に中国で発表された「中国製造2025」は、ドイツの「インダストリー4・0」と共通する部分が非常に多いです。第一段階は、2025年までに日本またはアメリカのような製造強国に仲間入りすること、第二段階は2035年までに世界の製造強国の中級レベルに達すること、第三段階は中国建国100周年である2049年までに、トップクラスの製造先進国になることを目標にしております。中国とドイツは、EVやPHEVを今後も積極的に導入することと思われます。

・2020年12月の情報では、2035年をメドに新車販売を全て環境対応車とする方向で検討中。技術者団体はEVなど新エネルギー車で50%、省エネ車とされるHVで50%とする目標を掲げております。

 

●欧州(ドイツ、フランス、イギリス、ノルウェー)
・欧州全体としては、ディ―ゼル車からPHEV・EVへの大転換を目指しています。
欧州のCO2規制は世界でも最も厳しいです。
2021年の基準値(欧州:95g/km、アメリカ:113g/km、日本:114g/km、中国116g/km)

・欧州が描く電動者ロードマップは、PHEVを経て、いずれはEVにシフトするという絵を描いています。EVやPHEVを開発する自動車メーカーには、燃料消費削減係数やスーパークレジットといった優遇措置が導入されております。VWの燃費不正問題により、VWまた他の欧州メーカーも電動化へのシフトを発表しました。

・また、欧州の自動車メーカーのアキレス腱として現状、セル調達先をアジアからの輸入に頼らざるを得ないことが問題となっております。

☆ドイツ
ドイツでは、2016年10月に、2030年までに内燃機関を搭載した新車の販売禁止を求める決議が可決されました。決議採択は、直ちに法的効果を有するわけではなく、この発表は国内政治の派閥争いによる影響が大きいようで、国内でも目標を導入すべきかすべきでないか意見が二つに分かれています。

☆フランス
・フランスは、2017年7月に2040年までに国内でのガソリン車、ディ―ゼル車の販売を禁止する方針を発表しました。この発表の狙いとして、マクロン大統領の国際的な発言力の強化が指摘されているようです。

☆イギリス
イギリスもフランスの後を追うように同年同月、2040年までにガソリン車、ディ―ゼル車の販売を禁止する方針を発表しました。しかし、古い原子力発電所が寿命を迎え、電力不足を防ぐには巨額の資金を投じて新たな発電所などの整備が必要な状況の為、現実的な目標とはいいがたいです。

☆ノルウェー
・2020年12月の情報では、2025年までにHVを含むガソリン車の販売を禁止、電動化では一番先行する国となります。

・2017年1月までの情報では、EV・PHEVの割合が約4割に達しているようです。ノルウェーのEVが先行的に進んだ理由として、①EVが導入される以前からユーザーが充電を行う習慣があったこと、②電力のほとんどが水力発電で賄われていること、③EVユーザーに対する優遇策が総合的に導入されていることの3つがあげられます。

 

●アメリカ
・アメリカでは、EVシフトとガソリン車の回帰で二極化しております。現在、カリフォルニア州ZEV規制がEVシフトを牽引しています。ZEV規制では各社に必要クレジットが割り当てられ、EVやPHEVを販売することで稼いだクレジットが割り当てを下回った場合は、CARB(米国カリフォルニア州大気資源局)に罰金を払うか、クレジットを多く保有する他メーカーからクレジットを購入し達成しなければなりません。現在、アメリカではカリフォルニア州以外に9つの州でZEV規制への参加を表明しています。こうした流れの中、アメリカはテスラを初めとしたEVベンチャーが数多くあり、世界のEVプレミアム市場を牽引していくと思われる。

・しかし、EVシフトへの流れとは逆行してガソリン車回帰の動きもあります。原油価格の下落に加え、緩やかな景気回復も追い風となり、SUVやピックアップトラックの売れ行きが伸びているようです。オバマ政権の時に規制が厳格化される予定でしたが、トランプ政権になり規制緩和の動きが活発化しました。次の大統領になると思われるバイデン政権でまたどうなるか引き続き要チェックであります。アメリカは、ZEV規制を採用する州とそうでない週で国内のEVシフトが二極化すると思われます。

・2020年12月の情報では、カリフォルニア州が2035年までにHVを含むガソリン車の販売を禁止する方針を発表しております。

 

●日本
・日本は、HVを軸とする電動化が進展しております。日本でHVが圧倒的なプレゼンスを誇っているのは、トヨタ、ホンダがHVを軸とした電動車戦略を展開してきたことが大きいと思われます。それ以外にも、走行環境や税制優遇など幾つかの要素が、HVの導入に寄与しております。また、道路環境においても日本は信号が多くHV車にとってのメリットが多い環境となっております。

・今まで紹介してきた中国、アメリカ、欧州は電動車でもEVやPHEVを優遇し普及促進を行っていました。一方、日本政府は特定技術を優遇せず、あくまで性能達成に対する優遇・規制を行っており、環境負荷に繋がればHVはもちろんガソリン車も対象としております。日本の電動車市場は、日本ならではのユーザー環境や政策を背景に今後も独自の進化を遂げていくと予想されます。

・2020年12月の情報では、2030年半ばまでに乗用車の新車販売からエンジンだけの車をなくし、すべてを電動車にする目標を検討しているとのことです。

 

●新興国(ASEAN、インド)
ASEAN、インドなどの新興国では、産業振興・環境対策でEV普及を狙っています。中国自動車メーカーは、安価なEVの市場投入を早期に進めることで、中国基準の品質、価格により参入障壁を築こうとしております。
一方、欧州自動車メーカーは、高品質なPHEVの技術を武器にハイエンドPHEV市場の攻略を狙っています。

☆ASEAN
ASEANでは、中国自動車メーカーや欧州自動車メーカーが、電動車市場における先行者利益を狙って続々と参入してきています。タイ、マレーシアは産業振興の一環としてEVを利用しております。
タイは、EV社会のビジョンを自国主導で描いていることもあり、国内での技術の蓄積を狙っています。
一方、マレーシアは、自国のみでは技術面を強化するのが難しい状況の為、欧州勢の協力を得ているようです。具体的には、政府系企業のグリーンテック・マレーシアが、BMWの現地法人であるBMWマレーシアとEVやPHEVの充電に関する覚書を締結しました。

☆インド
インドでは、2017年5月に2030年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止し、EVのみにするという方針が政府から発表されました。これまでのHVとEVの両建てから、EVのみに方針が変わったことで、自動車メーカーのパワートレイン戦略にも大きな変化が出てきているようです。具体的には、スズキとトヨタが、インド市場向けEV投入に関する各所を締結しました。
インドの首都ニューデリーの大気汚染は世界最悪であり、PM2・5の数値は世界保健機関が安全とする推奨値の70倍です。このような中、インドでは乗用車の電動化だけでなく二輪車や三輪車でも電動化の機運が高まっております。

 

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