素晴らしいアイデアを生み出す人は持って生まれた才能がある人だけでしょうか?
きっとそう考える人は多いのではないでしょうか。
しかし、「革新的なアイデアを生み出す能力は、知性だけでなく行動によって決まる。誰でも行動を変えることで、創造的な影響力をますます発揮できる。」と結論付けた本があります。
今回ご紹介したいのは『イノベーションのジレンマ(1997年)』や『イノベーションへの解(2003年)』の著者であるクレイトン・クリステンセン教授が執筆した『イノベーションのDNAー破壊的イノベータの5つのスキル』になります。
クリステンセン教授は、500人以上に及ぶ成功した起業家達と5000人を超える企業幹部をインタビューし、さらに周辺調査をした結果、IQ (知能指数) やEQ(感情的知能) に加えて、DQ(発見力指数) という新しい能力分析をして説明しております。
今回はそんな破壊的イノベータの5つのスキルについてご紹介したいと思います!
前回掲載しました業界構造をガラッと変えるメカニズムである破壊的イノベーションの記事についても興味がある方は是非チェックしてみてください!
●5つのスキルとは
クリステンセン教授は、破壊的イノベータの5つのスキルとして
①質問力、②観察力、③ネットワーク力、④実験力、⑤関連づける力
があるという。
それぞれのスキルの形態は
現状に異議を唱える
①質問力:行動的スキル、②観察力:行動的スキル、③ネットワーク力:行動的スキル
リスクをとる
④実験力:行動的スキル
斬新なインプットを組み合わせる
⑤関連づける力:認知的スキル
になる。
またそれぞれのスキルについての簡単な説明は以下。
①質問力:現状を把握する質問や問題を破壊するような質問をする力
②観察力:物事を注意深く観察することにより新しいアイデアを着想する力
③ネットワーク力:新しいアイデアや考え方を得るために自分のバックグランドや考え方と異なる人とつながる力
④実験力:新しい経験に挑む、ものを分解する、試作品や実証実験を通じてアイデアを試すという3つの実験から新しい洞察を得る力
⑤関連づける力:普通の人が無関係だと考える分野や問題、アイデアを結びつけて考える力
それではそれぞれのスキルについてもう少し詳しく解説していきたいと思います!
「疑う余地のないことを疑え」-ラタン・タタ
「質問」は創造的な洞察を生み出す可能性を秘めている。
そのため、イノベータは現状と可能性について理解を深めるためにたくさんの質問をする。
そして、イノベータは無難な質問はしない。型破りな質問をする。
質問によって現状に異を唱え、おそるべき激しさと執拗さで時の主流派を脅かすことも多い。
例:
・アインシュタインは、「正しい質問さえあれば・・・正しい質問さえあれば」といつも繰り返していた。彼は、「解答よりも問題を提起することの方が重要であることが多い」、そして問題解決の為に新しい質問を生み出すには「創造的な想像力が必要」と結論するに至っている。
・ピーター=ドラッカーは著書『現代の経営』の中で刺激的な質問の持つ力を理解し、「正しい答えを見つけることではなく、正しい質問を探すことこそが、重要かつ至難の問題だ。誤った質問に対する正しい答えほど危険とまではいわないが無駄なものはない。」と述べている。
・P&GのA.G.ラフリーは、数多くの質問をすることでゲームのルールを書き替えた。「我々がターゲットとする消費者は誰か?彼らは何を求めているのか?彼らについて何を知っている?彼らが今足りないと思っているものは何だろう?」といった質問で会話や会合の口火を切ることが多かった。また直感に反するような質問を絶えず求めており、「床やトイレの掃除を楽にするにはどうすれば良いか?」と聞くのではなく「どうすれば消費者に土曜の朝を取り戻してあげられるだろう?」といった質問をすることで出来るだけ多くの可能性を掘り起こすように効果が高い質問を考えている。
イノベータにとって質問することは、息をするように自然なことである。
非イノベータに比べてイノベータはより多くの質問をするだけでなく、より挑発的な質問をしていることが調査から明らかとなった。
「観察は、わが社最大のゲーム・チェンジャーだ。」-スコット・クック
イノベータのほとんどは熱心な観察者である。
そして、周りの世界を注意深くうかがい、物事の仕組みを観察するうちに、上手くいっていない物事に目が向くようになる。様々な感覚器官、5感をフルに活用して観察を行っている。
例:
・タタグループのラタン・タタ会長が、世界最安車(タタ・ナノ)を開発するきっかけになったのが、雨の中を男性と奥さんと子供2人の4人乗りで、ずぶ濡れになってスクーターで走っている姿を見て思い付いたのだという。タタはこの光景を自分の目で見て、心の耳で聞いたことで以前は気にもとめなかったことに気づいたのである。彼は「車があれば濡れずにすむのに、なぜ買わないのだろう?」と自問した。そして彼は、車は買えないがスクーターは買える家族のために安全で手頃な交通手段を作ることについて考えはじめたのである。またこれだけでなく、車を青空市場で販売し、必要なサービスを提供して、その日のうちに運転できるようにしたのである。つまり、中流階級のインド人に実際に運転席に座ってもらうための方法も考えたのである。
・インテュイットの創業者であるスコット=クックは2つの重要な観察を元に人気財務ソフトウェアの会社を創設した。1つは家庭内での単純な観察で、クックの妻が家計簿をつけながら「どうしてこんなに面倒で時間がかかるのかしら」と愚痴をこぼすのを見たこと。そして、もう1つはパソコンに得意なことと、苦手なことについて自身が持っている知識と結び付けたことである。こうしてインテュイットが生まれた。
BIG(ビッグ・アイデア・グループ)の創設者兼CEOのマイク=コリンズによれば、製品イノベータとして成功する人は常に観察力を働かせているという。
彼は、「イノベータはいつでも周りの世界を観察し、そして質問を投げかけている。観察が人格の一部になっている。」と述べている。
「他人の思考や経験に触発されずに自分1人で行うことは、どんなによくても、いささかつまらないし単調だ」-アルバート・アインシュタイン
イノベータは多様な人達とのネットワークを通してアイデアを探すことに時間と精力をかけるうちに物事を根本的に異なる観点からとらえるようになる。
従来の典型的な実行志向型の企業の幹部は資源を利用するため、自分や自社を売り込むため、キャリアアップのためにいわゆる人脈を広げようとする。
一方、イノベータは、知識の幅を広げるために多様な背景や視点を持った人たちとの出会いを精力的に求める。
例:
RIM(リサーチ・イン・モーション)の創設者であるマイケル=ラザリディスは、ある日新しいアイデアを求めて見本市に顔を出す。GMからの委託でラインに設置した大型LED表示ボードに作業員向けのメッセージや情報を流すための技術を開発していたが、当時彼はこのたった1つのプロジェクトにしか取り組んでいなかった。訪れた見本市ではドコモの社員が、コカ・コーラのために設計した無線データシステムの説明をしておりこの技術を見た時にラザリディスは閃いた。高校の頃の先生が「コンピュータに囚われすぎてはいけないよ。無線とコンピュータを結び付ける人こそが世界を変えるのだ。」と言っていたことを思い出したのである。無線でデータや情報のやり取りが出来る機器である双方向ポケットベルを思いついたのである。ラザリディスはLED表示ボード製品の権利を売り払い、双方向ポケットベルの開発に必要な無線技術に全精力を注ぐこととなる。これが後にRIMで大当たりしたスマートフォン「ブラックベリー」の原型となった製品である。
ラザリディスの経験は、多様な人と話し交流することで他では得られない知識や新しい視点を得ることの大切さを教えてくれている。
枠に囚われない考え方が出来る人は、色々な枠を足場とする人達と頻繁に話をすることで技術動向を理解し、新しいアイデアを得ているのである。
「失敗などしていない・・・ うまくいかないやり方を1万通り見つけただけだ」-トーマス・エジソン
今まで述べてきた「質問」「観察」「ネットワーク」は、過去(どうだったか)と現在(どうなのか)についての情報を与えてくれる。しかし、新しいアイデアが将来成功する方法について手がかりを得るには実験に勝るものはない。
実験は、新しい解決策を探すとき「もし~だったら」の質問に対する答えを出すのに最も適した方法である。
例:
・アマゾンのジェフ ベゾスは、投資会社の社員として働いていた時から、新規事業の機会を頭の中で試行錯誤していた。1994年の時のインターネットの劇的な成長は、年率2300%という凄まじいものだった。そこから、人がインターネットで買う上位20品目を調べた結果その中に書籍は無かった。種類が多過ぎて一冊のカタログでは情報を網羅しきれなかったのである。ベゾスはそれこそが、インターネットに向いていると考え実験した。そして、ベゾスはその年のうちに「地球最大の書店」をうたうアマゾンを立ち上げたのである。
・クリステン=マードックは、「カウパイ・クロック」という牛糞に上薬をかけ、時計を埋め込んだものを売りこれが全米でブームが起こすことになる。彼女はある日、砂漠で干からびた面白い形をした牛糞を見つけ、全然臭わなかったので家に持ち帰った。数日経ち牛糞が崩れ始めたので上薬を塗った所、黒光りした木の化石のようにいい感じになったのでこの牛糞に時計を埋め込み「元気かい、クソったれ」「感謝と肥やしを込めて」などおかしな言葉を添えておもしろギフトにして友達に贈ったらどうかと思いついた。女友達には不評だったが、親戚にタレントの友人である人物がおりその人物に贈ったところ、何週間か経ってテレビショッピングでその時計が紹介されたのである。その後、全米でブームとなりマードックはネットショップを立ち上げることとなる。
ベゾスはマードックのようなイノベータは、新しい経験を試すことすなわち実験することの価値を直感的に知っている。
調査結果では、イノベータの試す実験の中でも最も効果的なものが異文化のなかで暮らし、働くことであり、海外経験が多ければ多いほどその経験を活かして画期的な製品、プロセス、事業を生み出す可能性が高くなる。
「創造とは結びつけることだ」-スティーブ・ジョブズ
イノベータは確かに人と違う考え方をするが、スティーブ・ジョブズがいうように実はつながっていないものをつなげることによって違う考え方をしているにすぎない。
今まで述べてきた「質問」「観察」「ネットワーク」「実験」を結びつけることで革新的なアイデアを生み出すのである。
例:
ウォルト=ディズニーは、自分の興した会社で自らが果たす役割を”創造の触媒”と称した。小さな男の子に「おじさんは何をやっているの?」と聞かれたとき「私は小さなミツバチのようなもので、スタジオの片隅から別の片隅へ飛び回り花粉を集めて、みんなを励ましているのだよ。」と答えた。つまり、社員の経験が交わる所に身を置き、閃きを得ていた。ウォルトはアニメーションの長編映画を製作するアミューズメント・パークにテーマ性をもたらせるといった業界初の試みを行い娯楽の在り方を一変させた。
Appleやアマゾンといった著名企業のイノベーティブなリーダーも自分と他人の頭にあるアイデアを他家受粉させるといった同じことをやっている。
全く異質なアイデア、モノ、サービス、技術、学問分野などなどを結びつけて型破りなイノベーションに仕立て上げているのである。
ジョブズは、「創造的な人は、どうやってそれをやったのかと聞かれるとちょっとうしろめたくなる。。実は何をやったわけでもなく、ただ何かに目を留めただけなのだ….。」と述べている。